三原充史さん〜競馬の美しさを届ける写真家 全ての写真にはストーリーがある〜 

世界の競馬場で撮影をされている写真家の三原さんに世界各国の競馬文化の違いや驚いたこと。また撮影の際のポイントや思いについてお話をいただきました。

全ての写真にストーリーがあり、動画では表せないドラマがあり、取材をさせていただいた私自身は競馬の見方、そして楽しみ方が広がる内容であるとともに、プロフェッショナルとして重要な多くのことを学ばせていただきました。

競馬ファン及び写真を撮られている方にとって、必読の内容となります。

(取材・構成=藤田 健斗)

以下インタビュー内容

ー競馬カメラマンとしてのきっかけ 

はじめは中学生の頃に父親に連れて行ってもらった1998年のスペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイローが激突した弥生賞がきっかけでした。

そこから競馬への関心というものがとても高まり、その翌秋のスペシャルウィークが勝利した天皇賞・秋では親の都合がつかず一人でカメラを持って東京競馬場へ行きました。その後堰を切ったようにバイト代を注ぎ込んで競馬場で撮影をしてきました。

当時は自分より年上の方々にも可愛がってもらい、写真についても教えてもらっていました。その後、スポーツ写真家の水谷章人さんに指導していただく「水谷塾」で写真の表現を学んでいました。 

ー写真家というお仕事について 

2016年に全国4箇所のキヤノンギャラリーにて個展「HORSE RACING」という写真展を行いました。

その年はプロとして活動を始めた年なんですね。 その個展ではアマチュアとして撮りためてきた写真とプロとしての活動の中で収めた写真を見比べて出展する写真を選択しました。作品を並べてみると、プロとして活動していたからこそ撮れる写真や、ファン目線だからこそ撮れる写真もあるのが分かりました。

そのため見直していて面白かったですね。改めて今その写真展と同じようなものを出来るのかと考えたら、その当時の感覚から変化しているので難しいなと思いますよね。  

プロの写真家として仕事と考えるとこのシーンはこう撮らなくてはという柵みたいなものもありますし。常にプロはアマチュアが及ばないような写真を撮れるかというとそういうわけでもないと思います。

しかしプロとアマの違いを何かと考えた時にプロはクライアントの意図を汲みながら撮影を行いつつ、自分の特色を残すという点に違いを感じます。今の時代多くの方が高性能のカメラで数多くの写真を撮る中で勿論素敵な写真が撮れることはあると思いますが、私自身は一枚一枚のクオリティの高さや一枚で被写体のストーリーを伝えるといった所に拘って撮影を行ってます。
私自身もそれ相応の努力をした上でこの世界に足を踏み入れましたのでプライドをもって、自分が好きで被写体を撮影しているので被写体に失礼がないようにという事を意識しています。

ですから、写真を撮る時には私が撮影しているものは何かをきっちりと見てくださる方に伝わるように意識しています。 


ー感動した競馬場や牧場や風景などあれば 

写真を撮るときには背景については強く意識して撮影しています。

美しいところで馬が走っている姿を撮るなんて理想的ですよね。

先日、イギリスのニューマーケットを訪れたのですが、人工物が一切ない調教場で陽が昇って来る景色と壮大な敷地の中で自らが競馬発祥の地にいることに凄く感動しました。 これは一度訪れて撮影しただけでは全然足りないなと、これからも何度も足を運びたいと強く思いました。

そこからロイヤルアスコットの取材へ移動しましたが見るもの全てが輝いて見えましたね。一度行くと毎年行きたくなりますよ。そういった所で毎年仕事ができるようにしていきたいですね。 

ー因みにお仕事というのは案件が決まったものが多いのでしょうか? 

最初から決まっている場合もありますし、そうじゃなくても後から引き合いを頂くこともあります。

ロイヤルアスコットのように、日本では味わえない経験を収めた写真が今後自分にとっての財産になるのではないかと考えています。そのため自分への先行投資になるのではと思って取材に出掛けています。 

ー日本の競馬場での面白いポイントは 

広くてスタンド上の指定席でもガラス無しで天気が良ければ富士山が見れるなどの景色も含めて東京競馬場は魅力的な競馬場だと思います。

他にも地方競馬のこじんまりとした競馬場は馬との距離が近いのでダイナミックな写真が撮れたり、時に背景が凄く綺麗だったりするので各競馬場の特徴があって面白いかなと思います。

福島競馬場も私としてはお気に入りですね。夏の開催はあじさいが綺麗に咲いていて、その背景を意識しながら主役の馬にピントを合わせて撮影をしたり、パドックがスタンドの中にあるので窓の影なんかがそこに映り込みます。

そうすると日の傾きなども意識することでそこにしかない世界を撮ることができます。


ー1枚に激闘の瞬間やドラマが詰まっていますね  

ひと目見てストーリーが分かるようには意識しますね。騎乗フォームを見て誰か分かるようにというのもありますし。フォームや天気などの一つ一つを見てその被写体のストーリーを理解してもらえるように意識しています。

あとは写真撮る上で意識するのは馬の耳の向きや脚の形なども気にしてあげながら取っていますね。また、勝者だけでなく敗者に焦点を置くケースも勿論ありますから、そんな場面は一枚で悲壮感を伝えたいなと。

そういった時に無駄なものを入れないように。ストーリーを最終的に決めるのは見ている方なので、その時に必要ないものは入れないようにもしていますね。  
因みにこちらのダービーの写真(月刊優駿2022年7月号15ページに掲載)では馬が一番伸び切っている写真になるのですが、ドウデュースってこんなにも伸びるんだなと、そしてイクイノックスも動きがリンクしていたり。

それに加えて武豊ジョッキーの騎乗姿勢を保ちながら鞭を打つ瞬間など、これらの写真にも様々なドラマが含まれています。映像もいいですが画像でしか表現できない瞬間がありますよね。 

ー世界を回ってきて面白いと感じた文化の違いなどはありましたか? 

この六年間でアジア、ヨーロッパ、オセアニア、アメリカと世界の競馬を取材させていただきましたが各国の文化を比べるだけでも面白いですよね。

アメリカのブリーダーズカップに行った時は早朝に調教を競馬場で行うのですがファンの方がが調教を見に来られるだけでなく、厩舎も歩いて見に行けるんですね。

当時カリフォルニアクロームがいたのですが、厩舎の周りに人だかりができていました。それを見た時に人と馬の近さに驚きました。また、そのようなシーンの背景にはファンのマナーや理解がきっちりとあるからこそのだなと感じました。
世界にはドレスコードの文化もありますよね。大きなレースの中でもロイヤルアスコットが最たるものだと思います。そのロイヤルアスコットでも日本の着物が認められている。むしろ歓迎されているんですね。

そういった光景を見ると我々が競馬の世界で彼らをリスペクトするように世界のホースマンも日本の競馬界や文化というものもきっちりと見てくれていると私は感じましたね。
そういった事は現地で目にしてみないと実感がわかなかったですし、そういった事も写真を通して伝えていきたいなと考えています。普段から海外競馬などの情報も目にしますが百聞は一見にしかずだなと想う場面も多いですし見たものを写真を通して語っていきたいです。

競馬場でシャンパンを冷やして持ち歩けるようなバックがあったり、モーニングに山高帽の紳士がスマートフォン片手に馬券を購入している姿なんかも今の時代を象徴する一枚かもしれませんね。
 

ー海外競馬の魅力をお話の中でとても感じます! 

勿論日本の競馬も世界トップレベルで素晴らしいと思います。それに加えて海外競馬にも目を向けていくのも良いのではないかと考えております。海外にも目を向けていけば、オーナーや生産者や我々のような競馬関係の仕事をする人間等にとってはビジネスチャンスが増え、ファンにとっても競馬を楽しめる場面が増えます。

日本国内の番組数は法律なども含めてある程度決まっている中で外に目を向けることで幅は広がると思います。オーストラリアで取材している際に驚いたのは24時間競馬を買える形になっていて、いろんな国の競馬が放映されていたのです。

それは日本国内だとギャンブル依存症の問題などもありますから全方向から同意をもらうことは難しいかもしれませんが、海外の競馬と繋がることは国内の競馬産業の発展にも繋がると思いますね。 

ー思い出の一頭は 

一頭に絞るっていうのは本当に難しいです。そんな中でも特に思い入れがあるのはシンボリクリスエスとアルフレードですね。

縁あってデビュー前から注目していたシンボリクリスエスには初めて関西の競馬場へ足を運ぶきっかけをくれましたし、2年連続年度代表馬としてその活躍を目の前で見れたことで競馬にさらに没頭することが出来ました。

種牡馬入りした際にはいつか一口馬主で産駒を買いたいなと思い、色々とカタログを取り寄せた結果キャロットクラブさんでクリスエスの特徴を継いでいそうな馬を見つけました。

クリスエスの耳って凄く大きかったのでその特徴を受け継いでいると感じたアルフレードへ出資することを決めました。募集当時はプリンセスカメリア09という表記でしたが、母のプリンセスカメリアもデビュー戦を撮影していた馬なんです。(ダンスインザムードの勝利した新馬戦でした)なんとなく縁を感じたのもあって、デビューを楽しみにしていました。

そうしたら2歳で3連勝で朝日杯FSを勝ってくれたんです。その後日本ダービーに出走してくれたり、屈腱炎での長期休養後も重賞で活躍してくれたりと、様々な思い出があります。引退後は競技馬として帯広畜産大学で学生の皆さんと一緒に競技会にも出場していて、以前ご好意で大学の厩舎で会う機会を頂けました。

また最初にお話ししたスペシャルウィークも好きなのですが、シーザリオであればその産駒のエピファネイアはシンボリクリスエスの血統まで入っていて応援する馬たちの血統が脈々と受け継がれるあたりも競馬の魅力ですよね。

それぞれの牧場や土地などに特色や伝統、こだわりがあると思います。今は血統など様々なことを学びながら、ただの写真家としてだけでなく、競馬の魅力をもっと理解して発信していける写真家を目指しています。

そして競馬ファンって記憶が良いですよね。私の父も競馬の話は何十年も前の話を凄い知識量とスピードで楽しそうに話しますからね。競馬が記憶の想起になっていて青春が蘇る人も多いんじゃないかな。
そんな記憶を呼び起こす一枚なども沢山収めていきたいですね。 

アルフレード

ー仕事の時も馬券って買いますか 

私は買いますよ!そんなに大金を賭けるわけではないですが。これはまた写真の話になるのですが事前に予想をしていて一番人気が怪しなぁと感じた時には勝ち馬の見極めをギリギリまで引きつけようと考えますし、反対にこの馬がこのポジションにいればある程度早めから撮影しても良いかなとかありますね。

なので展開なども考えながら写真を撮る準備をします。 そのあたりは人によって違うと思いますが、私個人としては適度に馬券とも付き合い続けたいですね。

まとめ 

今回の取材で三原さんのプロとしての仕事への向き合い方と大事なことが詰まったお話でした。

昨今世の中には写真を提供する場や発信する場が増え多様化している。それは勿論良さでもあるが、危惧すべき点として無料で写真を提供するなども増えている中で中途半端なものが世の中にあふれると、本来評価されなくてはいけない写真が埋もれてしまったり、良い写真が出てこなくなってしまう未来があるかもしれない。そうならないためにも写真を見る側も目を肥やしていく必要性がありそうだ。

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